天草切支丹館

―――いま、取り壊し・建て替えの危機に直面しています 

        天草切支丹館取り壊しに反対する市民の会 代表  植村振作

 

天草切支丹館を描く女性

 今、天草切支丹館が取り壊し・建て替えの危機に直面しています。

最近、天草切支丹館に行った時のことです。天草切支丹館正面の駐車場でスケッチしている1人の女性がいました。

“もう直ぐこの赤い三角屋根の切支丹館が取り壊されるそうなので、こん前も来たんですが、慌てて今日もやって来て、描いているところです。天草で、全国にこれだけ広く知られている建物は他になかですもんね“

と、その女性は言っていました。

その通りです。今では、天草観光の象徴的な建物として広く全国に知られています。

その天草切支丹館が正当な理由もなく、取り壊し・建て替えられようとしているのです。

 

天草切支丹館

天草切支丹館は今からちょうど40年ほど前の1966年、天草五橋の開通に合わせて天草の観光の拠点にしようと、当時の地方自治体のやり方としては珍しく全国からデザインを公募して、嘗て天草を治めていた天草氏の本渡城本丸跡だった丘の頂上を削って(遺跡を壊して)建てられました。天草切支丹館の三角形の正面は天草(Aamakusa)の頭文字Aをかたどったものだそうです。

三角屋根の天草切支丹館は、今では、天草・島原の乱や隠れキリシタンなどに関する貴重な資料、例えば「あまくさ四郎陣中旗」(国指定重要文化財)などを展示した歴史資料館としても広く全国に知れわたり、近年年間約7万2千人の観光客が訪れ、天草観光の象徴的な建物になっています。

天草切支丹館が新しく建てられた時も遺跡が破壊され、問題になりましたが、天草の民の苦難に満ちた資料を集めた歴史資料館として、また、天草のシンボルとして定着している天草切支丹館の建て替えは、せっかく全国に広まった天草のイメージを壊すことであり、その上税金の無駄使いであり、建て替えによって城跡をこれ以上掘り返すことは更なる遺跡の破壊に繋がると訴え、何度も市と話し合いを持ちました。

そのなかで分かったことは、市の建て替えの理由には全く正当な根拠がないことでした。

 

建て替えの理由-天草市の言い分

議会や市民への説明会での市の説明を纏めてみますと、取り壊し・建て替え理由は、

①老朽化(ろうきゅうか)していること

②狭くて十分な資料の展示ができないことや入館者に対する説明や天草観光案内のスペースが取れないこと

③改修要望が出ていること

④バリヤフリー化のためのエレベーター設置やトイレ改修については建築基準法の規制を受けていて、設置・改修不能であること

⑤アスベスト対策上問題があること

⑥耐震対策上の課題があること

などです。これらの理由が本当ならば、どうにかして対処しなければなりません。

 

建て替え理由は全て嘘です

そこで私たちは、現地調査や天草切支丹館に働いている職員からの聞き取り、議会議事録、役所内の資料など徹底的に調べてみました。ところが、どれもこれも事実に反している嘘だと言うことが分かりました。

①老朽化している、と市は云います。老朽化とは、年をとったり、または長く使ったりしたために役に立たなくなることです。天草切支丹館は、コンクリート建物の老朽化の目安になる外壁などの亀裂や雨漏りなどもありません。綺麗です。コンクリート建物の耐用年数は、標準的には60年と言われています。まだ築後40年しか経っていない天草切支丹館は、どんなに見ても老朽化しているとは云えません。

少し専門的になりますが、コンクリート建物の老朽化の目安にコンクリートのPH測定をします。しかし、そういう調査を一切していないことが情報開示で明らかになりました。なんの調査もせずに、しかも雨漏り・亀裂などもないのに老朽化しているというのは全くの嘘偽りです。

②狭くて十分な資料展示ができないとも云いますが、収蔵している約400の中約300点が常時展示してあります。資料館として十分な展示がしてあります。

また、入館者に対する説明や天草観光案内のスペースが取れないとも云っていますが、年間7万人程度の入館者で、頻繁に混雑することもなく、観光案内もなされている、と切支丹館の職員自身が述べています。狭くて建て直さなければならないというのも嘘です。

③改修要望が出ていることについて、市役所に提出された記録類や本渡市時代の市議会議事録あるいは切支丹館への要望などを徹底的に調べてみました。展示の仕方や、休息所設置などの要望が出ていますが、改築を希望する要望は全くありません。むしろ、本渡城本丸趾をこれ以上破壊しないで欲しいという要望が何通も市長宛に出ています。改築を含む改修要望が出ているというのも全くの嘘です。

④体の不自由なひとのためのエレベーター設置やトイレ改修が建築基準法の規制を受けて設置・改修ができないというのも嘘です。

確かに、天草切支丹館があるところは過去には第一種低層住居専用地域だったので規制を受けていましたが、今では第一種住居地域に用途変更され、エレベーター設置やトイレ改修も建築基準法に基づいて設置可能です。建築基準法の規制を受けて設置・改修ができないというのは過去の話です。

⑤天草切支丹館には確かにアスベストが使われている場所があります。でも、専門機関による調査の結果、施設の取り壊しの必要がなく、そのまま利用できることが証明されています。館内には、その旨掲示されています。アスベスト対策上問題があるというのも嘘です。

⑥天草切支丹館は建築基準法の耐震設計基準が変更される(昭和56年)前の昭和41年に建設されたので、耐震対策上の課題があり、建て替える必要があると説明します。もし、この論法に従えば、昭和56年以前に建てられ建造物は全て耐震対策上の理由で建て替えなければならなくなります。でもそんな話は聞いたことがありません。通常、まず建て替えるべきかどうかの議論の前に耐震調査がなされます。

ところが、天草切支丹館の耐震強度の調査はなされていません。情報梶でそのことが明らかになりました。耐震対策上問題がるので建て替える必要がある、というのも取って付けた嘘です。

以上示しましたように、天草市の説明は嘘偽りの固まりとしか云いようがありません。市民を騙し、市議会を欺き、あの本渡の丘の上の赤い三角屋根の天草切支丹館を取り壊し、建て替えようとしている天草市のやり方は全く理解できません。

 

国にも嘘ついています

「天草切支丹館の整備」事業(7億9千9百万円)というのは、本渡中央北地区「まちづくり交付金事業」(23億1千4百万円)という天草市の都市再生整備計画の中の一つの事業です。国から多額の交付金補助を受けて行われます。その交付金を申請するに当たっては、国交省が定めた「まちづくり交付金の事前評価時における客観的評価基準」に基づく「事前評価チェックシート」という書類を出さなければなりません。

ところが、その「事前評価チェックシート」でも嘘ついているのです。

その「事前評価チェックシート」の中に、「計画について住民等との間で合意が形成されている」かどうかを記載する項目があります。その項目に、住民との合意がなされている又は合意される見通しが十分にあるとの意味の丸(○)印が付けられ、国交省に交付金の申請がなされました。

ところで、交付金申請以前には「まちづくり交付金事業」の具体的内容は市民に全く知らされていませんでした。交付金決定後に計画が市民に知らされました。その直後、地元住民や歴史研究者から反対意見が出てきました。どう考えても、住民との合意がなされているとは云えません。そもそも合意しようにも何について合意したらよいのか、交付金申請以前には、その合意する材料さえ示されていなかったのです。

国は「事前評価チェックシート」の記載内容に関し、記載した自治体を全面的に信頼しており、第三者による「事前評価チェックシート」の確認を受ける制度は設けられていません。「事前評価チェックシート」には真実の内容が記載されているものと信頼して処理されます。それをいいことに、 “合意あり“との虚偽内容の申請書を出して、国から交付金を受けています。悪質です。何故これほど嘘偽りを重ねるのか、理解できません。

天草市が虚偽の公文書を作成し、まちづくり交付金事業を申請し、その交付を受けたことに対して、同事業への既支出金の返還と今後の同事業の中止を求める住民監査請求が住民から提出されています。当然、監査結果によっては住民訴訟にまで発展するでしょう。

 

天草市のために

 今年、天草の2市8町が合併して、人口約9万9千人の天草市になりました。天草市には合併前の放漫財政のつけが合計1008億円の借金として残り、市税収入約73億円に対して借金(公債費)返済に約77億円を支出しなければならないほどの財政的に逼迫した自治体としてスタートしました。

 そのような逼迫した財政状況の中にあって、先に示しましたように正当な理由もなく、全国の皆さんに親しまれた切支丹館を取り壊し、さらに新しい建物を造ることは、常識的には考えられないことです。税金の無駄使いです。

さらに、その経費を国や議会、市民を欺き、交付金として受け取っていることは到底許されるものではありません。

「誰もが誇りに思い、心豊かに暮らせる宝の島を築く」という新天草市市長の市政方針を実現するためには、市が天草切支丹館整備事業計画申請の非を率直に認め、本渡中央北地区「まちづくり交付金事業」という天草市の都市再生整備計画を変更し、天草切支丹館整備事業を中止するよりほかに選ぶより他に道はありません。