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ステンドグラス
     
         
創建当初の大浦天主堂   出荷証明書   ガラス工芸家の竹田克人さん
創建当初の大浦天主堂(大浦天主堂博物館提供)   サンゴバン製であることの出荷証明書   ガラス工芸家の竹田克人さん(中央)

仏から輸入されたものと専門家
世界文化遺産 長崎・大浦天主堂 創建当初のステンドグラスか
天草の旧家に伝わる


世界文化遺産で、現存する日本最古のキリスト教会「大浦天主堂」(長崎市)(1)が創建された1864年当時のステンドグラスが熊本県天草市有明町の旧家・北野鋼一さん(77)方に伝わっている。
アンバー(琥珀色)と透明の2枚で、大浦天主堂のステンドグラスを修復したことがある長崎市のガラス工芸家の竹田克人さん(72)が2020年9月25日、現地で調査。大浦天主堂と同じもので、仏から輸入されたサンゴバン製だということが分かった。
「大変貴重なものだ。このサイズの古いものは国内で見たことがない」と話している。

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ガラス板はアンバーが縦61.2センチ、横45.6センチ。透明が51.0センチ、横45.84センチの2枚。原板をそれぞれ2分割したものとみられる。
鋼一さんは40年ほど前に、屋敷を管理していた人から大浦天主堂のステンドグラスが母屋に保管されていることを聞いた。

北野家は赤崎村(現・天草市有明町)の庄屋で、先祖の北野織部は1859年から翌年にかけて長崎の大浦湾を埋め立て、外国人居留地の造成を行なった人物。
織部は大浦天主堂の建築工事を請け負った御領村(現・天草市五和町)の大工棟梁の小山秀乃進の実兄にあたる。

小山はグラバー邸や同天主堂など様々な建築工事を請け負い、興隆するが、炭鉱事業に手を出して失敗。負債を抱えた小山は兄の織部を頼って天草に戻った。(2)
ステンドグラスは当時、高価で希少品。その時に「譲り渡したものではないか」と鋼一さんは話す。

大浦天主堂は仏と関係が深く、フランス人宣教師のベルナール・プチジャン神父の指導で建設。書簡には「色ガラス」とあり、長崎の店で購入契約をしたことが記されている。

当時、国内で色ガラスを作る技術はまだなく、建築にあたり、長崎を経由し、フランスなどから輸入していた。また主祭壇のステンドグラスは仏のル・マンのカルメル修道会から寄贈されている。

1879年に一度、改築。1945年に原爆投下により大きな被害を受け、現在の主祭壇はパリのロジェ商会に発注して作られたもので、さらに91年の台風19号被害で破損。建造当初のステンドグラスは一部に残るだけという。

製造メーカーのサンゴバンはパリ近郊のラ・デファンスに本社を置き、350年の歴史を持つ。
1665年、ルイ14世の時代に創業し、19世紀中ごろにはすでにヨーロッパのガラスおよび鏡市場の25%を占めるようになっていた。
長崎や天草各地の教会のステンドグラスも同社製が使われているという。

鋼一さんによると、これまで天草キリシタン館に寄託していたが、市の職員が不手際で破損させたことが返還時に発覚。
市は2016年、京都にある文化財保存支援機構で修復と、ガラスの組成などを調べる蛍光X線分析を行なったが、どこで作られたのか、大浦天主堂と同じものなのか不明のままだった。

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地元の歴史研究グループで天草キリシタン研究会(浜崎献作会長)がこのほど竹田さんに調査を依頼。
大浦天主堂の修復をした際のガラスのサンプルを持参し比較、照合した。
「大浦天主堂にも同色のアンバーが使われていて、これと同一のものだと思う。
30年前も修理部品を取り寄せた出荷証明書にサンゴバン(3)の品番が記載され、注文されている」と話す。(4)

大浦天主堂博物館(長崎市)の内島美奈子研究課長は「大浦天主堂には祭具などフランス製のものが色々と使用されており、今の色ガラスもフランス製のものということで驚いた。
天草に所蔵されている色ガラスは創建時(もしくは過去の改修工事)に関係する資料として、非常に貴重なものだ」とする。

また長崎総合科学大学の林一馬名誉教授(建築学)はパリ外国宣教会の古文書局で2007年、大浦天主堂の設計図を発見。
10年ほど前にこの色ガラスを見て「歴史的来歴からすれば、大浦天主堂と同一のものであることを疑う理由はない」と話している。

(金子寛昭)
2020/9/25 初稿


◎註
(註1)世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産の一つ「大浦天主堂」(国宝)は現存する国内最古の教会で、1864年12月29日竣工。翌年、2月19日献堂式。

(註2)1883年以降、天草に戻る=1883年、坂上天満宮(長崎市賑町)の建築が最後。

(註3)サンゴバンはフランスに本社があり、350年の歴史を持つ会社。
1665年、ルイ14世の時代に創業。ガラスおよび鏡の製造では17世紀初頭、伊のヴェネツィアが世界をリードしていたため、それに対抗するため国策で作られた。
1830年、ルイ・フィリップ王の時代に国家から独立。これまでの贅沢品市場向けから天窓などの建築用ガラス、厚い鏡、窓ガラスなどへと需要を広げた。
19世紀中ごろにはベルギーやイギリスの企業と競争激化のため、競合社との合併で、ヨーロッパのガラスおよび鏡市場の25%を占めるようになった。

(註4)1992年3月の「出荷証明書」にはサンゴバン製のアンバーで「SGS 269E」と記載されている。竹田さんは気泡と筋の状態から判断した。

◎協力:
大浦天主堂博物館(長崎市)の内島美奈子研究課長
長崎総合科学大学の林一馬名誉教授(建築学)

◎関連記事:

○西日本新聞 「大浦天主堂創建時と同一か 専門家『同じ琥珀色』天草・旧家に残るステンドグラス」(2020年11月10日朝刊)


 
       
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